シードルとは、りんごの果汁を発酵させてつくるお酒のことで、多くは軽い泡を持つ発泡性のタイプです。フランス語の「cidre」に由来する呼び名で、英国ではサイダー、スペインではシドラと呼ばれ、ぶどうのワインになぞらえて「アップルワイン」と呼ばれることもあります。アルコール分はおおむね2〜8%ほどのものが多く、ぶどうのスパークリングワインよりも軽やかに楽しめるのが特徴です。
シードルとはどんなお酒か
シードルの基本はとてもシンプルで、りんごを砕いて搾り、その果汁を酵母の力で発酵させたものです。ぶどうのワインと同じ「果実を発酵させたお酒」の仲間ですが、りんごはぶどうより糖分が少ないため、出来上がるお酒のアルコール分も低めになります。フランスの一般的なシードルは2〜10%程度の幅に収まり、甘口ほど度数が低く、辛口ほど高くなる傾向があります。
泡の出し方にはいくつかの方法があります。瓶の中で発酵を続けさせて自然に炭酸ガスを閉じ込める方法、タンクで発酵させてから瓶詰めする方法、炭酸ガスを後から加える方法などで、造り手や価格帯によって使い分けられています。瓶内で泡を生むやり方は、シャンパーニュなどのスパークリングワインと考え方が近く、きめの細かい泡になりやすいとされます。
味わいを左右するのは、原料のりんごです。生食用のりんごだけでつくると、さわやかで果汁感の強い仕上がりになります。一方、フランスや英国の伝統的な産地では、渋みや苦みを持つシードル用の品種を、甘い品種・酸っぱい品種と組み合わせて使います。タンニン由来のほろ苦さや厚みが加わり、食事と合わせやすい奥行きのある味になるのはそのためです。
国によって違う呼び名とスタイル
りんごのお酒はヨーロッパの冷涼な地域で広く飲まれてきたため、国ごとに名前も飲み方も異なります。同じ「cider」という言葉が国によって別の飲み物を指すこともあるので、整理しておくと便利です。
| 国・地域 | 呼び名 | 特徴 |
|---|---|---|
| フランス(ノルマンディー、ブルターニュ) | シードル(cidre) | 甘口から辛口まで表示があり、原産地呼称を持つものもある。微発泡〜発泡性 |
| 英国(イングランド西部など) | サイダー(cider) | 辛口で泡のあるものが主流。パブで樽から注がれる日常のお酒 |
| スペイン(アストゥリアス、バスク) | シドラ(sidra) | 泡がほとんどない酸味の強いタイプが伝統的。高い位置から注いで空気を含ませる |
| ドイツ(ヘッセン州、フランクフルト周辺) | アプフェルヴァイン(Apfelwein) | 泡のない酸味のきいたりんご酒。「りんごのワイン」の意味 |
| アメリカ | ハードサイダー(hard cider) | 単に「サイダー」というと発酵させていないりんごジュースを指すことが多いため、お酒には「ハード」を付けて区別する |
| 日本 | シードル | フランス語由来の呼び名が定着。青森や長野などのりんご産地で造られている |
フランスのシードル
フランスでシードルの本場とされるのは、北西部のノルマンディー地方とブルターニュ地方です。どちらもぶどう栽培には寒すぎる土地で、代わりにりんごの果樹園が広がり、りんごのお酒が日常の飲み物として根づきました。ワインと同じように原産地呼称の制度があり、ノルマンディーの「ペイ・ドージュ(Pays d’Auge)」やブルターニュの「コルヌアイユ(Cornouaille)」などは、産地と製法の決まりを守ったシードルだけが名乗れます。
ブルターニュではそば粉のガレットやクレープと一緒に飲むのが定番で、陶器の碗のような器「ボレ(bolée)」で供されることもあります。ノルマンディーではシードルを蒸留したりんごのブランデー「カルヴァドス」や、りんご果汁にカルヴァドスを合わせた甘いお酒「ポモー」も造られ、りんご文化の厚みを感じさせます。洋梨で同じように造るお酒は「ポワレ(poiré)」と呼ばれます。
英国のサイダー
英国では「サイダー」はりんごのお酒そのものを指し、パブでビールと並んで注文される身近な存在です。イングランド西部のヘレフォードシャーやサマセットは伝統的な産地として知られます。大手メーカーの辛口で泡のある瓶・缶入りのものから、小さな農家が樽で仕込む濁ったものまで幅が広いのが特徴です。
スペインのシドラ
スペイン北部、とくにアストゥリアス州はシドラの土地として有名です。伝統的なシドラは泡がほとんどなく、酸味がしっかりしています。これを、瓶を頭上高く掲げ、腰の位置に構えたグラスへ細く落として注ぐ「エスカンシアール」という注ぎ方で、空気を含ませて一時的に泡立たせてから飲みます。一度に注ぐのはひと口分だけで、すぐに飲み切るのが作法です。2024年には、アストゥリアスのシドラ文化がユネスコの無形文化遺産に登録されました。バスク地方でも「サガルドア」と呼ばれるりんご酒が親しまれています。
日本でのシードルの扱いと「アップルワイン」
酒税法では「果実酒」
日本の酒税法では、お酒は17の「品目」に分けられています。シードルは果実を原料として発酵させたお酒なので、品目としてはぶどうのワインと同じ「果実酒」にあたり、国産・輸入品ともにラベルの品目欄に「果実酒」と書かれているのが一般的です。果実酒の定義は「果実を原料として発酵させたもの(アルコール分20度未満)」などとされており、りんごもこの「果実」に含まれます。
少しややこしいのは、酒税法にはこれとは別に、税率を決めるための「種類」という大きな区分があることです。ビールや発泡酒以外のお酒でも、アルコール分が一定未満で発泡性があるものは「発泡性酒類」のうちの「その他の発泡性酒類」として扱われます。この基準は2026年9月30日までは10度未満、2026年10月1日からは11度未満とされているため、度数の低い泡のあるシードルの多くは、品目は果実酒でありながら、税率の上では発泡性酒類の扱いになります。泡のないものや度数が基準以上のものは、ワインと同じ「醸造酒類」の果実酒です。
なお、果実酒にブランデーや糖類を混ぜたものは「甘味果実酒」という別の品目になり、香料などを加えた商品ではリキュールなどに分類される場合もあります。同じ「りんごのお酒」でも、気になるときはラベルの品目欄を見ると造り方の手がかりになります。
「アップルワイン」という呼び方
「アップルワイン」は、りんごを発酵させたお酒を、ぶどうのワインになぞらえて呼んだ言葉です。法律上の正式な区分名ではなく、商品名や説明として使われています。英語圏ではあまり一般的な呼び方ではありませんが、ドイツのアプフェルヴァインを直訳すると「りんごのワイン」になります。日本では、泡のないりんごのお酒や、ブランデーなどを加えて度数を高めた甘口のりんごのお酒にこの名前が付いていることがあり、発泡性のシードルとは味わいがかなり違う場合があります。購入するときは度数と品目を確かめると、どんなタイプか見当がつきます。
日本のシードルづくり
日本で最初に商業的にシードルを造ったのは、青森県弘前市の吉井酒造だったとされています。その後、1972年にはニッカウヰスキーが「ニッカシードル」を発表し、シードルという言葉が広く知られるきっかけになりました。現在は青森、長野、岩手、北海道などのりんご産地を中心に、小さなワイナリーやシードル専門の醸造所も増え、ふじやジョナゴールド、紅玉など日本でなじみのある品種を使ったものも多く造られています。
ちなみに、日本で「サイダー」というと炭酸の清涼飲料を思い浮かべますが、これも英語のciderから来た言葉です。名前は同じでも、アルコールを含むりんごのお酒とはまったく別の飲み物です。
甘口・辛口の選び方
シードルを選ぶときにいちばん手がかりになるのは、甘辛度の表示です。フランスのシードルでは、ラベルにおおよそ次のような言葉が書かれています。
- ドゥー(doux):甘口。発酵を早めに止めるため、りんごの甘みが残り、度数は3%未満程度と低め
- ドゥミ・セック(demi-sec):中辛口。甘みと酸味のバランスがよく、食事にも合わせやすい
- ブリュット(brut):辛口。糖分がしっかり発酵してアルコールに変わり、度数は4〜5%以上になることが多い
「ブリュット」はシャンパンの甘辛度表示でも使われる言葉ですが、シードルとシャンパンでは糖分の基準が同じではありません。同じ「ブリュット」でも、味わいの感じ方は別物と考えておくとよいでしょう。日本のシードルは「スイート」「ドライ」など、わかりやすい表記を使う商品も多く見られます。
お酒に慣れていない人や、食後にデザート感覚で楽しみたいときは甘口を、料理と一緒に飲みたいときは中辛口から辛口を選ぶのがひとつの目安です。瓶の口がコルクで留められた「シードル・ブシェ(cidre bouché)」は、瓶内で泡を生む伝統的な造りのものに多い表示です。
飲み方と合う料理
シードルは冷やして飲むのが基本です。冷蔵庫で数時間冷やし、8度前後を目安にするとさわやかさが引き立ちます。瓶内で泡を生むタイプは、底に酵母のおりがたまっていることがあるので、静かに立てておいてから注ぐと澄んだ状態で楽しめます。グラスはワイングラスやフルートグラスのほか、ブルターニュ風に陶器のカップで飲むのも雰囲気があります。
料理との相性は、産地の食文化を手本にするとわかりやすくなります。
- そば粉のガレット、クレープ:ブルターニュの定番の組み合わせ。ハムや卵、チーズを包んだガレットと辛口のシードル
- 豚肉料理:ローストポーク、ソテー、ソーセージなど。りんごの酸味が脂をすっきりさせてくれる
- チーズ:カマンベールなどノルマンディーのチーズとは同郷の組み合わせ
- 甘口のシードルとデザート:タルト・タタンや焼きりんごなど、りんごを使ったお菓子と
開けた後は、泡が抜けやすいのでスパークリングワイン用の栓をして冷蔵庫に入れ、早めに飲み切るのがおすすめです。シードルを酢酸発酵させるとりんご酢になるので、料理に使いたいときはアップルビネガーの記事も参考になります。
シャンパンやスパークリングワインとの違い
見た目が似ているため、シードルはシャンパンと比べられることがよくあります。いちばんの違いは原料で、シャンパンはフランスのシャンパーニュ地方で、決められたぶどう品種と製法で造られた発泡性ワインだけが名乗れる名前です。りんごから造るシードルは、どれだけ泡がきれいでもシャンパンとは呼べません。
度数にも差があり、シャンパンをはじめとするぶどうのスパークリングワインは11〜12%前後のものが多いのに対し、シードルはその半分ほどのものが主流です。そのぶん昼間やカジュアルな食事にも取り入れやすく、乾杯用のお酒として選ばれることもあります。香りはぶどうの代わりに、りんごそのものや熟した果実、ときに干し草のような素朴なニュアンスが感じられるのが持ち味です。
まとめ
シードルは、りんごの果汁を発酵させた軽やかなお酒で、フランスのシードル、英国のサイダー、スペインのシドラ、ドイツのアプフェルヴァインと、土地ごとに異なる姿で親しまれています。日本の酒税法では品目は「果実酒」で、度数の低い発泡性のものは税率の上で発泡性酒類として扱われます。「アップルワイン」は正式な区分名ではなく、泡のないものや甘口のものを指すこともあるため、ラベルの度数や品目、甘辛度の表示を見て選ぶと好みのものに出会いやすくなります。
※20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。



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