電気パンとは、パンの生地に直接電気を流し、そのとき生じる熱で焼き上げる蒸しパンのような食べもののことです。戦後まもない食糧難の時代に家庭で広く作られ、現在は小学校や中学校の理科の実験としてよく知られています。仕組みは単純ですが、むき出しの電極に家庭用電源の電気を流すため、感電の危険がある調理法でもあります。
電気パンの仕組み
電気パンを焼く道具は、木やプラスチックなど電気を通さない材料で作った箱の内側の向かい合う二面に、金属の板(電極)を取り付けたものです。この箱に生地を流し入れ、電極に電気を流すと、生地そのものが電気の通り道になります。
生地には水と、塩などのイオンになる成分が含まれているため、電気が流れます。電気が流れるとき、生地の電気抵抗によって熱(ジュール熱)が生じ、生地の内側から温まっていきます。電子レンジともオーブンとも違う、「食べもの自体がヒーターになる」加熱方法です。
生地に重曹(炭酸水素ナトリウム)やベーキングパウダーが入っていると、温度が上がるにつれて二酸化炭素が発生し、生地がふくらみます。焼き上がりは、こんがりした焼き色のないふわふわの蒸しパンのような見た目になります。
焼き上がると自然に電気が止まる
電気パンの面白いところは、焼き上がりをある程度自分で教えてくれることです。加熱が進んで生地の水分が蒸発すると、電気が流れにくくなり(抵抗が大きくなり)、やがて電流がほとんど流れなくなります。理科の実験で電流計をつなぐと、はじめは電流が増え、パンが焼けるにつれて減っていく様子が観察でき、これが教材として長く使われてきた理由のひとつです。
電気パンの歴史
生地に電気を流して加熱する仕組みは、戦前の日本陸軍で研究されていました。1930年代に、陸軍で電極を使った調理装置が開発されたことが記録に残っており、野外で炊事をする車両の研究とも関係があったとされています。
家庭で電気パンが広まったのは、第二次世界大戦が終わった1945年以降です。ガスや燃料が乏しく、食糧も配給に頼っていた時代、電気は比較的使いやすいエネルギーでした。配給された小麦粉やとうもろこしの粉などを水で溶き、手作りの電気パン焼き器で焼くことが流行しました。メーカーも電気パン焼き器を売り出し、ソニーの前身である東京通信工業なども製品を手がけたことが知られています。
その後、食糧事情やガスの供給が落ち着くにつれて家庭の電気パン焼き器は姿を消し、1950年ごろには大部分が使われなくなったとされます。日本でパンがどのように広まってきたかは、日本のパンの歴史でも紹介しています。
理科の実験としての電気パン
現在の電気パンは、主に学校の理科の授業で出会う存在です。電気がものを温める仕組み、電解質と電流の関係、重曹の熱分解による気体の発生など、いくつもの学びがひとつの実験に詰まっています。大学入試センター試験の物理の問題に電気パンが取り上げられたこともあり、教材としての歴史は長いものです。
授業で使われる生地は、ホットケーキミックスや小麦粉に、水、牛乳、砂糖、重曹、塩などを合わせたものが一般的です。塩を入れるのは、電気を流れやすくするためです。生地の材料や塩の量を変えて、焼き上がりまでの時間や電流の変化を比べる実験もよく行われます。
| 材料の役割 | 主な材料 | 実験で見えること |
|---|---|---|
| 電気を流れやすくする | 塩、水分 | 塩の量によって電流の大きさや焼き上がりまでの時間が変わる |
| ふくらませる | 重曹、ベーキングパウダー | 加熱で気体が出て生地がふくらむ |
| 生地の本体 | 小麦粉、ホットケーキミックス | 焼けると形が保たれる |
| 味と食感 | 砂糖、牛乳、卵 | 甘みやしっとり感が変わる |
家庭で作るときの注意
電気パンは、家庭用コンセントの電気を、むき出しの金属板と水分の多い生地に直接流す調理法です。手や濡れたものが電極や生地に触れると、感電するおそれがあります。インターネットには手作りの焼き器の作り方も見られますが、配線や絶縁に不備があると大きな事故につながりかねません。
- 自作の焼き器は使わず、学校の授業など、知識のある大人の管理のもとで行う
- 通電中は電極にも生地にも絶対に触れない。生地を出し入れするときは必ずプラグを抜く
- 水や濡れた手を近づけない。子どもだけで行わない
- 電極に使う金属にも注意が必要。食品に直接電気を流す器具の電極には、食品衛生法で使える金属が限られている
電極の金属が適していないと、通電によって金属が生地に溶け出すおそれがあります。食べる目的で作るなら、安全性が確かめられた教材用の器具を使うのが前提です。家で手軽にふわふわのパンを作りたいなら、フライパンやポリ袋を使う方法のほうが安全です(ポリパン)。
電気パンの味と、似ている食べもの
電気パンは焼き色がつかず、外側までしっとりやわらかいのが特徴です。味わいは、ホットケーキの生地を蒸した蒸しパンに近く、材料に砂糖を入れれば素朴なおやつになります。当時の家庭では、配給の粉に手に入るものを混ぜて焼いていたため、決してぜいたくな味ではなかったと考えられますが、温かい主食を手軽に作れることは大きな魅力だったはずです。
いまの台所で同じような食感を楽しむなら、蒸し器や電子レンジで作る蒸しパンが近い存在です。ホットケーキミックスに牛乳と卵を混ぜ、カップに入れて蒸すだけで、電気パンに似たふわふわの食感になります。
まとめ
電気パンは、生地に直接電気を流して内側から加熱する、蒸しパンのような食べものです。戦前の陸軍で研究された仕組みが、戦後の食糧難の時代に家庭へ広まり、1950年ごろには姿を消しました。いまは電流や熱、化学変化を学べる理科の実験として受け継がれています。感電や金属の溶け出しの危険があるため、自作の焼き器は使わず、大人の管理のもとで行うようにしてください。



コメント