「ロシアパン」という言葉には、大きく二つの意味があります。ひとつはロシアで食べられているパン、とくにライ麦を使った酸味のある黒パンのこと。もうひとつは、日本で生まれて親しまれてきた、ロシアのパンを手本にした甘い菓子パンのことです。
本場ロシアのパンの特徴
ロシアは寒冷な地域が多く、寒さに強いライ麦が昔から主な穀物のひとつでした。そのため、ライ麦粉で作る色の濃いパンが食卓の中心にあり、「黒パン」と呼ばれて親しまれています。ライ麦の生地は小麦のようにふくらむ力が強くないので、サワー種(乳酸菌と酵母を含むパン種)を使って発酵させるのが一般的で、どっしりと目が詰まり、ほのかな酸味があります。
一方で、小麦粉で作る白いパンも日常的に食べられています。ロシアでは食事のたびにパンを添えるのが当たり前で、スープや前菜と一緒に、黒パンと白パンの両方が並ぶことも珍しくありません。
代表的なロシアのパン
| パン | 特徴 |
|---|---|
| ボロジンスキー | ライ麦の黒パン。糖蜜などで甘みとコクをつけ、コリアンダーの種で香りをつける |
| ライ麦の黒パン(一般) | サワー種で発酵させた酸味のあるパン。薄く切って食べる |
| 白パン(小麦のパン) | 棒形や型焼きのものなど。日常の食事用 |
| ピロシキ | 肉や野菜、卵などを包んだ小型のパン。焼いたものも揚げたものもある |
| クリーチ | 復活祭に焼く、背の高い円筒形の甘いパン。上にアイシングをかける |
| カラヴァイ | 結婚式などで用いる、飾りつけをした大きな丸いパン |
ボロジンスキー
ボロジンスキーは、ロシアを代表する黒パンのひとつです。ライ麦粉を主に使い、糖蜜や麦芽で甘みとコクを、コリアンダー(とキャラウェイ)の種で香りをつけます。名前はナポレオン軍との戦いがあったボロジノの地名にちなむといわれ、由来にまつわる話がいくつも伝わっていますが、どれも裏づけはなく、この名前が文献に現れるのはロシア革命よりあとと考えられています。
ピロシキ
日本でもおなじみのピロシキは、パン生地などに具を包んだ料理で、日本では揚げたものがよく知られていますが、ロシアではオーブンで焼くものも一般的です。具はひき肉や玉ねぎ、ゆで卵、キャベツ、じゃがいもなどさまざまで、甘いジャムを包んだものもあります。
パンと塩のもてなし
ロシアには、大切な客を迎えるときに、丸いパンと塩を差し出してもてなす「パンと塩(フレープ・ソーリ)」という習わしがあります。迎えられた人はパンを少しちぎって塩をつけて食べ、歓迎に応えます。結婚式のカラヴァイも、こうしたパンを大切にする文化の中で受け継がれてきたものです。パンは単なる主食ではなく、豊かさやもてなしの心を表すものとして扱われてきました。
日本の菓子パン「ロシアパン」
日本で「ロシアパン」というと、ロシアの丸いパンなどを手本にしながら日本で独自に形づくられた、甘い菓子パンを指すことがあります。ライ麦は使わず、ふんわりとやわらかい生地で、表面に砂糖の衣をかけたものや、黒砂糖を練りこんだものなどがあり、店によって大きさも味もさまざまです。
明治時代の終わりごろには、ロシア人のパン売りが街で「ロシアパン」と呼ばれるパンを売り歩いていたと伝えられています。その後、日本のパン屋や製パン会社が「ロシアパン」の名前で菓子パンを作るようになり、地域によっては長く親しまれる定番のパンになりました。本場の黒パンとは味も食感もまったく違いますが、日本のパンの歴史の中で生まれた、ひとつの名物といえます。日本のパンの歩みは日本のパンの歴史で紹介しています。
ライ麦パンを日本で楽しむには
本場のような黒パンは、ドイツや北欧のパンを扱うパン屋、ロシア料理店の売店、輸入食材店などで手に入ることがあります。ライ麦の割合が高いパンは、目が詰まっていて酸味があるので、薄く切って食べるのが基本です。
- バターを塗り、塩気のあるにしんの酢漬けやイクラ、サーモンをのせる
- ボルシチなどのスープに添える
- チーズやハム、ソーセージと合わせる
- 日持ちするので、薄切りにして冷凍しておき、少しずつ食べる
ライ麦パンはふつうの食パンと比べて食物繊維が多いことで知られます。小麦の表皮も一緒にひいた粉のパンについては全粒粉食パンの記事も参考にしてください。保存の基本はパンの冷凍保存で紹介しています。
まとめ
ロシアパンには、ライ麦を使った酸味のある黒パンなど本場ロシアのパンと、日本で独自に生まれた甘い菓子パンという、二つの意味があります。本場ではボロジンスキーのような黒パンや、具を包んだピロシキ、復活祭のクリーチが知られ、日本では明治の終わりごろからロシア人のパン売りの記憶とともに、菓子パンとしての「ロシアパン」が親しまれてきました。



コメント