フードデリバリーの配達員は、多くの場合、会社に雇われた従業員ではなく業務委託の個人事業主なので、会社員のように労災保険が自動で付くわけではありません。事故に備えるには、各社が用意している補償制度、原付・バイク・車の自賠責保険と任意保険、自転車保険、そして2021年9月から自転車配達員も入れるようになった労災保険の特別加入を組み合わせて考えるのが基本です。各社の補償は「そのサービスの配達中」の事故が対象で、上限もあるため、それだけに頼らないことが大切です。
この記事では、補償の種類ごとに、何が対象で何が対象外かを公式情報をもとに整理します(2026年10月時点)。
事故のときに関係する補償の全体像
| 補償 | 対象 | 入り方 |
|---|---|---|
| 各社の補償制度 | そのサービスの配達中の事故(内容は会社ごと) | 各社が用意。内容は公式の案内で確認 |
| 自賠責保険 | 原付・バイク・車の事故で、相手のケガや死亡(人身) | 法律で加入が義務 |
| 任意保険(自動車保険・バイク保険) | 相手の物の損害、自賠責を超える分、自分のケガなど(契約内容による) | 自分で契約。配達での使用に対応しているか確認 |
| 自転車保険(個人賠償責任保険など) | 自転車事故で相手に与えた損害など | 自分で契約。条例で加入義務の地域あり |
| 労災保険の特別加入 | 配達の仕事中のケガ・病気・障害・死亡 | 特別加入団体を通じて任意加入 |
各社の補償制度
Uber Eats
Uber Eatsの公式ページによると、配達パートナーには、三井住友海上火災保険との包括連携協定に基づいて、配達中の対人・対物賠償責任保険と、配達パートナー自身のケガに対する傷害補償制度が用意されています。事前の申し込みは不要で、追加の費用もかかりません(2026年10月時点)。
- 対象になる時間:対人・対物賠償は、配達リクエストを受けてから配達完了またはキャンセルまで。傷害補償はそれに加えて、配達を終えてから15分以内の事故も対象
- 傷害補償の主な内容:医療見舞金(50万円まで)、入院・稼働不能見舞金(1日7,500円、60日まで)、入院一時金(ヘルメット着用時2万円、非着用時5,000円)、後遺障害見舞金(最大1,000万円)、死亡見舞金(1,000万円)など
- 対象外・注意点:自賠責保険の代わりにはならず、政府の労災保険でもない。自分の車両(自転車・原付・バイク・軽貨物車)の修理費や持ち物の損害は対象外。原付・125cc超のバイク・軽貨物車で自分の自動車保険に入っている場合は、その保険が優先され、Uberが手配した賠償責任保険はその上限を超えた分に使われる
このプログラムはUberの裁量で変更・終了されることがあると明記されています。最新の内容は公式ページで確認してください。
出前館
出前館の業務委託配達員の募集ページでは、バイクや車で配達する場合、運転免許証・自賠責保険証明書・車検証・ナンバープレートの写真に加えて、任意保険証明書の提出が求められています(2026年10月時点)。配達員向けの特典ページでは、提携先を通じた自賠責保険の更新手続きや、業務使用に対応した任意保険の取り扱い先が案内されています。配達中の事故に対する出前館独自の補償制度の内容は、公開されている公式ページでは確認できませんでした。登録時の案内やアプリ、サポートで確認してください。
ロケットナウ
ロケットナウの配達パートナー向けの補償制度は、公開されている公式情報では確認できませんでした。登録時の案内やアプリ内のヘルプ、サポートセンターで、補償の有無と対象になる時間・内容を確認してください。シフト制の法人パートナーを通じて働く場合は、所属する会社の保険や補償もあわせて確認が必要です。各社の働き方はロケットナウ配達員の始め方、Uber Eats配達パートナーの始め方、出前館配達員の始め方で紹介しています。
自賠責保険(原付・バイク・車)
原付・バイク・車は、自賠責保険(または共済)への加入が法律で義務づけられています。国土交通省によると、自賠責は事故の被害者の人身の損害を補償する制度で、支払限度額は被害者1人につき、死亡3,000万円、傷害120万円、後遺障害は等級に応じて75万円〜4,000万円です。相手の車や物の損害、自分のケガや車両の損害は、自賠責では補えません。いわゆるペダル付き電動バイク(モペット)にも自賠責が必要です。詳しくは国土交通省の自賠責保険・共済ポータルサイトで確認できます。
任意保険(自動車保険・バイク保険)
自賠責で足りない部分を補うのが任意保険です。相手の物の損害(対物賠償)、自賠責の上限を超える相手への賠償(対人賠償)、自分のケガ(人身傷害・搭乗者傷害)、自分の車両の損害(車両保険)などを、契約内容に応じて補償します。
配達員が特に注意したいのは、保険の「使用目的」です。自動車保険には、日常・レジャー用、通勤・通学用、業務用などの区分があり、配達に使っているのに日常・レジャー用で契約していると、事故のときに補償を受けられないおそれがあります。区分の名前や扱いは保険会社によって違います。契約や更新のときに、フードデリバリーの配達で使うことを保険会社や代理店に伝え、補償の対象になるか確認してください。125cc超のバイクや軽自動車で事業用ナンバーを付けて配達する場合は、事業用の車両として契約することになります。
自転車保険
自転車には自賠責のような強制保険がありません。しかし、自転車でも歩行者にけがをさせれば高額の賠償責任を負うことがあります。多くの都道府県や一部の市が、条例で自転車損害賠償責任保険等への加入を義務または努力義務にしています。お住まいの地域の状況は国土交通省の自転車損害賠償責任保険等のページや自治体の案内で確認してください。
ここでも大事なのは「業務中も対象か」です。火災保険や自動車保険の特約として付いている個人賠償責任保険は、日常生活の事故を対象にしていて、配達のような業務中の事故は対象外としていることがあります。配達中の事故も補償されるか、契約内容を確認しましょう。
労災保険の特別加入
フードデリバリー配達員が対象になった経緯
労災保険は本来、雇われて働く労働者のための制度ですが、一定の自営業者なども任意で加入できる「特別加入制度」があります。厚生労働省によると、貨物運送の事業では、自動車を使う人に加えて、2013年4月1日から総排気量125cc以下のバイク(原付)を使う人も特別加入できるようになりました。そして2021年9月1日からは、自転車を使用して貨物運送事業を行う人も対象になりました。これで、自転車・原付・バイク・軽自動車のどれで配達する人も、貨物運送の事業として労災保険に特別加入できるようになりました。
厚生労働省のリーフレットでは、普段は食品を運んでいて、ときどき食品以外を運ぶ場合でも特別加入できるとされています。なお、2024年11月1日からは、業種を問わず「特定フリーランス事業」も特別加入の対象になりました。
補償される範囲
特別加入すると、仕事中のケガや病気、障害、死亡などに対して、治療費(療養)、休業中の給付、障害が残った場合の給付、遺族への給付などが受けられます。貨物運送の事業の特別加入では、通勤災害は保護の対象ではありませんが、事業の範囲内で自転車などを運転する作業、荷物の積み下ろしとこれに直接付随する行為で被災した場合は、業務災害として認定されます。
入り方と保険料
特別加入は、都道府県労働局長の承認を受けた「特別加入団体」を通じて申し込みます。配達員本人が加入したい団体に申し込み、団体が労働基準監督署に申請書を出し、都道府県労働局長が承認する流れです。手続きのときは、使うすべての車両を明らかにし、主に使う車両を申請書に記入します。
年間の保険料は、自分で選ぶ給付基礎日額(3,500円〜25,000円)×365日×保険料率で計算します。厚生労働省の特別加入保険料率表(2024年11月1日施行)では、原付・自転車などを使う貨物運送の事業の保険料率は1,000分の11です。たとえば給付基礎日額5,000円なら、年間保険料は2万75円です。給付基礎日額を高くすると保険料は上がりますが、休業中の給付なども多くなります。団体によっては、保険料とは別に入会金や会費がかかることがあるので、申し込み前に確認してください。詳しくは厚生労働省「労災保険への特別加入」で確認できます。
事故が起きたら
- けが人がいれば救護し、二次事故を防ぐために安全な場所へ移動する
- 警察に連絡する(事故の届出がないと、保険の請求に必要な証明がとれないことがある)
- 配達しているサービスのサポートに連絡し、注文の扱いの指示を受ける
- 相手の連絡先、車両のナンバー、現場の写真などを記録する
- 加入している保険会社・労災の特別加入団体に連絡し、請求の手続きを確認する
Uber Eatsの公式ページでも、事故のときは警察とサポートセンターに連絡するよう案内されています。
まとめ
- 業務委託の配達員には労災保険が自動では付かない。各社の補償・自賠責・任意保険・自転車保険・労災の特別加入を組み合わせて備える
- Uber Eatsは配達中の対人・対物賠償と傷害補償を無料で用意。出前館はバイク・車での任意保険加入が登録条件。ロケットナウの補償は公式案内で確認する
- 自賠責は人身のみで上限がある。任意保険は配達での使用に対応しているか確認する
- 自転車保険は条例で加入義務の地域が多い。業務中の事故が対象か確認する
- 2021年9月から自転車配達員も労災保険に特別加入できる。保険料率は1,000分の11(2024年11月から)
補償制度や保険の条件は変わることがあります。各社の公式サイト・アプリと、保険会社・厚生労働省の最新情報を確認してください。保険料を経費にできるかは配達員の確定申告と税金、使う車両ごとの必要な保険は配達に使う車両の選び方、全体像はフードデリバリー配達員の始め方で紹介しています。
